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有閑主腐えみりんがツレヅレなるままに好きなことを語ります。


by emmylinn0514
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佐藤亜紀『ミノタウロス』を読む

佐藤亜紀の『ミノタウロス』を読んだ。
いつもの佐藤亜紀クオリティなのだが、ストーリーが凄絶である。
20世紀初頭を生きた主人公が、ロシア革命の伝播を受けて混乱したウクライナを流転していく様を描いている。
主人公は、普通の男である。大地主の次男だが成り上がりの家で、きちんとした教育を受けているが、高邁な理想も無い。混乱の中、家を焼かれ、銃を手にし、生きるために略奪を始める。泣き叫んで嫌がる女を強姦するのは、とんでもなく気分が悪いものだといいながら、少し気に入った女は手篭めにする。むやみやたらと殺すわけではないが、必要とあれば何人でも何十人でも殺し、良心の呵責を感じることもない。これらを主人公は一人称で淡々と語るのだが、そこに髪の毛一筋ほどの狂気も無いのが恐ろしい。(主人公の周囲にはもちろん狂気で以って人殺しを楽しんでいるものたちもいるのだが)人間と言うものは環境に投げ込まれれば、狂気も無く後悔も無くこれだけの悪行を重ねてしまうのだ。なまじ、主人公の父親の話や、成長の過程から語られ、それが時代が半世紀違うだけのほんとうに普通の男なので、なんだかとても感情移入してしまうのも、佐藤亜紀の筆力のなせる技だろう。自分がどんな環境に置かれても絶対に人殺しはしない、などとヌルい感覚は吹き飛ばされる。
読んでいる間中、『秩序も規律も持たない集団で、
ひとたび適者生存が唱えられたら、適者というのがどんな奴を意味するのか』
というグレアム(『はみだしっこ』by三原順)の言葉が、頭の中をずうっと廻っていた。
軽々しく人に薦められる本ではないが、21世紀の日本で、この毒に脳ミソをしびれさすのもよいのではないですか。

ミノタウロス
by emmylinn0514 | 2007-06-01 12:24 | 佐藤亜紀